今月のことば

 
 「鐸 声」
浄土宗新聞 令和8年8月号より転記
 ◆古来、月は人類にとって、深い宗教的なインスピレーションを呼び覚ます存在だった。仏教でも、完全なるさとりを満月に譬えたり、仏の慈悲を月の光に譬えたりした。宗歌でもある法然上人の「月かげの いたらぬさとは なけれども ながむる人の 心にぞすむ」の御歌でも、月の光は仏の救いの隠喩として用いられている。

 ◆一昨年の8月、末期のがんを患った高齢の男性に生前戒名を授けてほしいと依頼を受けてお宅に伺った。戒について説明し、浄土の教えをお伝えする中で「月かげの御歌」を書き記し、この歌が、阿弥陀如来の平等な慈悲の世界を端的に示していることをお伝えした。

 ◆授戒を約束した日の前夜は、中秋の名月だった。月の出に気付いた奥さんは外の通りまでこの方をお連れし、しばし、お二人で煌々たる名月を眺めたという。

 ◆先日、この方は浄土へと旅立たれたが、納骨の後に奥さんから、「月かげの御歌」と二人で眺めた美しい月が、今も心の支えになっていると伺った。名月の晩、ご夫婦の心に宿った澄んだ月の光に、私も静かに思いを馳せた。 



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